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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)128号 判決 1970年1月26日

東京都文京区大塚五丁目四〇番一八号

原告

株式会社 日強製作所

右代表者代表取締役

高橋省吾

右訴訟代理人弁護士

岡部勇二

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

小林武治

右指定代理人

広木重喜

山口三夫

掛札清一郎

中川謙一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)

「被告は原告に対し、金二六万六、〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年七月一日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言

(被告)

主文と同旨の判決ならびに仮執行免税の宣言

第二原告の請求原因

原告が昭和三七年一二月一日から昭和三八年一一月三〇日までの事業年度の法人税について所得金額一六九万三、七六四円、法人税額五一万一、一二〇円と確定申告したところ、小石川税務署長は、原告が当時の取締役倉持に、涌井陽太郎および宮城嘉春の三名に対して支給した賞与合計八〇万一、三七五円を使用人分賞与として損金に計上しているが、原告会社は、旧法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの。以下同じ。)七条の二にいう同族会社に該当し、かつ、右三名の取締役は、同族会社判定の基礙となる株主であつて、同法施行規則(昭和四〇年政令第九七号による改正前のもの。以下「旧規則」という。)一〇条の三第六項四号の規定により使用人兼務役員から除外されているので、右賞与のうち六八万〇、〇〇〇円は、同条の四の規定によつて役員賞与として損金に算入されないとの理由に基づき、昭和四一年六月二九日付で、所得金額を二三七万三、七六四円、法人税額を七六万〇、六三〇円と更正し、過少申告加算税一万二四五〇円の賦課決定をなし、該再更正および賦課決定は、異議・審査においても維持されたが、もともと、右旧規則一〇条の三第六項の規定が憲法三〇条および旧法九条一項に違反して無効であるので、違法な課税処分であるというべく、小石川税務署長も、取消訴訟係属中、昭和四三年一一月三〇日にいたり、その違法を認めてみずからこれを取り消した。ところが、原告は、右異議・審査の申立てのために税理士佐久間庸夫に対し報酬として一〇万三、〇〇〇円を、取消訴訟の提起のために弁護士岡部勇二に対し報酬として一六万三、〇〇〇円を支払つたが、これは明らかに、右税務署長が職務上の注意義務を怠り、故意少なくとも過失によつて違法な課税処分を行なつたため原告に与えた損害にほかならないから、原告は、国家賠償法一条の規定に基づき、被告に対しその賠償を求める。

なお、原告会社の発行済株式総数および前記三名の取締役等原告会社の役員の株式所有数が被告主張のとおりであり、また、右三名の取締役が使用人兼務役員であつたことは認める。

第三被告の答弁

原告主張の請求原因事実中、更正および賦課決定が違法であり、小石川税務署長が敢えてこれを行なつた点に故意又は過失があることは否認、原告がその主張のごとき報酬を支払つたことは不知、その余の主張事実はすべて認める。

原告会社の発行済株式総数は、五、〇〇〇株であるが、そのうち、代表取締役である高橋省吾が三、一〇〇株、倉持仁が八〇〇株、涌井陽太郎が六〇〇株、宮城嘉春が四〇〇株、監査役である佐久間庸夫が一〇〇株をそれぞれ所有しているので、原告会社は、旧法七条の二にいう同族会社に該当するところから小石川税務署長は、原告主張のごとき理由に基づづき主張のごとき更正および賦課決定を行ない、該課税処分は、福岡高等裁判所昭和四〇年一二月二一日判決の趣旨にそうものということができるのであるが、その後の昭和四〇年法律第三四号によつて現行の法人税法三五条二項の規定が設けられ、使用人兼務役員に対する賞与のうち当該使用人としての職務に対するものと認められる相当な部分は、爾後損金に算入されることになり、また、大阪高等裁判所昭和四三年六月二八日判決によつて、旧規則一〇条の三第四号の規定は、一律にこれを適用すべきではなく、同族会社の判定の基礙となる株主に対する賞与であつても、真に使用人としての職務に係るものと認められる部分は、損金に算入するのが相当であるとの判断が示されるにいたつたので、同署長は、職権によつてこれを取り消したのである。かように右規定の効力については、裁判所の見解も分かれていたほどであるから、仮りに右再更正および賦課決定が違法であるとしても、同署長に故意又は過失があつたものとはいえない。

第四証拠関係

(原告)

甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第九号証を提出し、乙号各証の成立は認める。

(被告)

乙第一、第二号証の各一、二を提出し、甲第七ないし第九号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

小石川税務署長が原告の昭和三七年一二月一日から昭和三八年一一月三〇日までの事業年度の法人税について原告主張のごとき理由で主張のごとき更正および賦課決定を行なつたことは、当事者間に争いがない。

本訴は、もとより右更正および賦課決定の取消しを求めるものではなく、それが違法であることを前提として、かかる違法な課税処分によつて原告の被つた損害の賠償を求めるものであるので、まず、右更正および賦課決定を行なつた小石川税務署長に故意又は過失があつたかどうかについて判断することとする。

原告会社の発行済株式総数は、五、〇〇〇株であり、そのうち、三、一〇〇株を代表取締役の高橋省吾が、八〇〇株を取締役の倉持仁が、六〇〇株を取締役の涌井陽太郎が、四〇〇株を取締役の宮城嘉春が、一〇〇株を監査役の佐久間庸夫がそれぞれ所有していたことおよび右三名の取締役が使用人兼務役員であつたことは、原告の認めて争わないところであるから、原告会社は、同族会社であり、しかも、右三名の取締役は、同族会社の判定の基礎となる役員で、しかも、使用人兼務役員であつたというべきである。ところで、旧規則一〇条の四但書は、使用人兼務役員に対する賞与のうち当該使用人としての職務に対するものと認められる相当の部分は、所得の計算にあたり、特に、損金に算入することとしているが、同条の三第六項四号は、同族会社の役員のうち同族会社の判定の基礎となる株主、社員もしくは同族関係者を使用人兼務役員から除外する旨規定しているので、法文上は、これらの役員が使用人としての職務を兼ねているとしても、それに対する賞与は、一応、損金に算入されないこととなつており、前記再更正および賦課決定の行なわれた昭和四一年六月二九日当時、右条項の効力について、これを租税法律主義に違反して無効であるとする裁判例(たとえば、大阪地方裁判所昭和四一年五月三〇日判決・行裁集一七、五、五九一参照。)はあつたが、反対に、これが有効であるとする裁判例(たとえば、福岡高等裁判所昭和四〇年一二月二一日判決・行裁集一六・一二・一、九四二参照。)もあり、その見解が分かれていたことは、当裁判所に顕著な事実があるから、かような事情のもとにおいて、小石川税務署長が右規則条項を有効なものと認め、右事実関係に照合して前記更正および賦課決定を行なつたことは、法令の効力について独自の判断権がなく、むしろ、その執行を任務とする同署長としては、当然の措置であつて、もとより、故意又は過失をもつて論難すべき限りではないというべきである。(最高裁判所昭和四四年二月一八日判決、判例時報五五二号四七頁等参照)。もつとも、小石川税務署長は、大阪高等裁判所昭和四三年六月二八日判決(行裁集一九六・一、一三〇)に依拠して右更正および賦課決定をみずから取り消してはいるが、該判決は、もとより、右更正および賦課決定後になされたものであるから、これをもつて同署長の故意又は過失の有無を判定する資料となし得ないことは、いうまでもないところである。

以上の説示によつて明らかなように、小石川税務署長が右更正および賦課決定を行なつたことにつき故意はもとより過失があつたものとは到底認められないので、右課税処分が違法であるかどうか、また、原告の支出したと主張する弁護士費用等が果して同処分による損害として国家賠償法の規定に基づき国に対してその賠償を求めることが許されるかどうかを判断するまでもなく、原告の本訴請求は、すでに右の点において理由がないので、これを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき、民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 中平健吉 裁判官 渡辺昭)

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